トマホーク、ついに我が海自イージス艦から火を噴く
トマホークが、初めて日本の艦から飛び立った。2026年7月29日(日本時間)、太平洋上で海上自衛隊のイージス護衛艦「ちょうかい」が実射試験に成功。防衛省は翌30日、これを正式に発表した。
発表文は淡々としている。「乗員の練度を含め、実際に発射できることを確認しました」。だが、この一文の重みは決して軽くない。戦後、我が国の艦艇が相手国の領域を直接狙える長射程ミサイルを撃ったのは、これが初めてだからだ。
「リムパックでの発射」ではない
この試験を「RIMPAC2026での発射」として紹介する話が出回っているが、事実ではない。RIMPAC2026に派遣されたのは護衛艦「こんごう」とP-1哨戒機。「ちょうかい」は米海軍の支援を得て、米国海域で単独で試験を行っている。多国間訓練の余興ではなく、1年がかりの派米事業の最終関門だった。
トマホークとは何か — 射程1600kmを這う亜音速の刺客
トマホークは米国が開発した艦艇・潜水艦発射型の巡航ミサイルだ。最大射程は約1600km。弾道ミサイルのように超音速で降ってくるのではなく、亜音速で低空を這うように飛び、地形に沿って経路を変えながら精密に目標を叩く。
肝心なのは速度ではなく距離である。相手の防空圏の外から撃てること——これが「スタンド・オフ」という思想だ。
ブロックⅣとブロックⅤ
我が国が取得するのは2種類。
| 区分 | 採用時期 | 取得数 | 取得年度 |
|---|---|---|---|
| ブロックⅣ | 2006年型 | 最大200発 | 2025〜2027年度 |
| ブロックⅤ | 2021年型 | 最大200発 | 2026〜2027年度 |
最新はブロックⅤだが、両者の性能差が決定的に開くわけではない。むしろ旧型のブロックⅣを半数混ぜたことで導入時期を1年前倒しできた——ここが計画の肝だった。
4年の記録 — 安保3文書から実射試験まで
トマホーク導入は一朝一夕の話ではない。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2022年12月 | 安保3文書改定、反撃能力の保有を明記 |
| 2023年2月 | 400発購入方針を表明。2023年度予算に契約ベース2113億円 |
| 2023年11月 | 米DSCAが議会へ総額23億5000万ドル規模の売却案を通知 |
| 2024年1月18日 | 米海軍省と売買取決めを締結 — 約2540億円 |
| 2025年9月 | 横須賀で模擬弾搭載訓練、「ちょうかい」派米へ出航 |
| 2025年10月 | サンディエゴで艦艇改修・乗員訓練を開始 |
| 2026年3月27日 | 防衛省、発射能力の獲得を確認と発表。ミサイル納入開始 |
| 2026年7月29日 | 太平洋上で初の実射試験に成功 |
約2540億円の内訳は、ミサイル分が約1694億円、関連器材分が約847億円。決して小さな額ではない。


なぜ「ちょうかい」だったのか
トマホーク運用一番艦に選ばれた「ちょうかい」は、こんごう型護衛艦の4番艦として1998(平成10)年に就役した。基準排水量7250トン、全長161m、乗員約300名。定係港は長崎県の佐世保基地である。
選定理由は、意外なほど実務的だ。定期整備のタイミングがちょうど重なっていた。改修と整備をまとめて処理できる艦が「ちょうかい」だった、というわけである。
2025年9月下旬に横須賀を発った同艦は、米第3艦隊司令部のあるサンディエゴへ。10月中旬から発射機能の付加工事と乗員訓練を重ね、今年3月、防衛省は発射能力の獲得を確認したと発表した。
残るは実弾を撃つことだけ。それが7月29日だった。
ただし試験の詳細——どの標的をどう捉えたのか——は、米側の意向により公表されていない。「ちょうかい」は9月頃に帰国し、佐世保を拠点に実任務へ就く見通しだ。
なお一部の専門家分析では、日本は米国・英国・オーストラリア・オランダに続く5番目のトマホーク運用国とされる。
400発の先は? — 国産ミサイルとの役割分担
イージス艦8隻すべてにトマホークの発射機能を付加するのが防衛省の計画で、2026年度予算までに約1136億円が計上されている。単純に割れば1隻あたり40発。長期戦を想定すれば、潤沢とは言いがたい。
ところが防衛省担当者は、追加購入の計画はないと説明する。なぜか。
答えは国産にある。防衛省はトマホークをあくまで「国産スタンド・オフ・ミサイルの補完」と位置づけている。艦載国産弾の先陣を切るのは25式地対艦誘導弾(旧・12式地対艦誘導弾能力向上型)の艦発型で、2027年度に護衛艦「てるづき」で運用を開始する。射程は約900〜1500kmだ。
ただし名前のとおり対艦専用である。艦艇から撃てる対地攻撃用の国産弾は、現時点で存在しない。その空白を埋めるのが、まさにトマホークの役回りなのだ。
残された課題
楽観だけはできない。朝日新聞の報道では、中東情勢で米国製ミサイルが枯渇しているとして、ある政府関係者が「弾薬が不足したまま、本格的な運用を迎える可能性が高い」と語っている。匿名の個人的見解ではあるが、軽視しにくい指摘だろう。
8隻の改修も、まだ1隻が終わったにすぎない。実戦的な抑止力となるには、改修の進捗と乗員の養成、そして目標を探し出す情報収集体制が噛み合って回る必要がある。
まとめ
トマホーク初発射の成功は、ゴールではなくスタートラインだ。2022年の決断が2026年の噴煙につながるまで4年。ここから始まるのは、その噴煙を本物の抑止力へ変えていく、はるかに長い作業である。


