79式対舟艇対戦車誘導弾44年、衝撃の退役が残した決定的空白5つ

79式対舟艇対戦車誘導弾は、名前の並びからして少し不思議な装備です。「対戦車」より「対舟艇」が先に来る。誤植ではありません。この誘導弾が何を最初に狙っていたのか、名称がそのまま語っているのです。

79式対舟艇対戦車誘導弾、名前の順序がそのまま思想だった

型式名はATM-2、部隊での通称は「重(じゅう)MAT」。川崎重工業が1964年から開発に着手し、1979年に制式化されました。

陸上自衛隊初の対戦車誘導弾である64式対戦車誘導弾に続く、第2世代の多目的ミサイルです。

肝心なのは「対舟艇」が先に置かれている点です。島国において、敵の戦車は上陸用舟艇に載って来ます。船から降りるまで、戦車はただの積荷にすぎません。

だからこの誘導弾は、戦車ではなく戦車を積んだ舟艇から狙いました。装備解説でも用途は「対上陸用舟艇火力または遠距離用の対戦車火力」と説明されています。名前の順序が、そのまま役割を表しているわけです。

33kg、人が抱えて走れる重さではない

79式対舟艇対戦車誘導弾の諸元は、この装備の性格をそのまま映しています。

項目数値
誘導弾重量約33kg
全長約1,570mm
胴体直径約150mm
飛翔速度約200m毎秒
射程4,000m
誘導方式有線SACLOS(赤外線半自動)
弾頭対戦車榴弾(HEAT)/対舟艇榴弾(HEAS)

ミサイル1発で33kg。携行式の対戦車ミサイルが10kg前後であることを考えれば、体格そのものが違います。上陸用舟艇という目標を確実に破壊するため、弾体を大型化した結果でした。

そのため運搬は人ではなく車両の仕事でした。発射機1型と2型、照準器、送信器などで構成される1セットを73式小型トラック2両に積んで移動し、地上に降ろして組み立ててから射撃します。車上からそのまま撃つことはできませんでした。

システム総重量を約224kgと紹介する資料もありますが、公式公表値として確認できないため参考値として見るのが安全です。

有線SACLOS、遅さは欠陥ではなく選択だった

79式対舟艇対戦車誘導弾の誘導方式は、有線式の半自動指令照準線一致、いわゆるSACLOSです。射手が照準器で目標を捉えて発射すると、誘導弾後部のキセノンランプが赤外線を放ちます。

照準器がその光を受けて照準線とのズレを読み取り、送信器が必要な操舵量を自動で算定します。その信号は、ミサイルが曳いていくワイヤーを通じて伝わります。

つまり射手は命中の瞬間まで目標から目を離せません。命中精度が装備性能と同じくらい隊員の練度に左右された理由です。

その代わり得るものもありました。有線誘導は電波妨害に強く、誘導弾の単価を抑えられます。1970〜80年代の基準では十分に合理的な取引でした。

射手を生かすための50m

被発見の問題にも手当てがなされています。照準器を発射機から分離し、最大約50m離して運用できるようにしたのです。敵が発射炎を見て反撃してきても、射手は別の位置にいるという構造でした。

弾頭は2種類、戦場も2種類

79式対舟艇対戦車誘導弾は、目標に応じて弾頭を選んで撃つ装備でした。戦車や装甲車には成形炸薬を使う対戦車榴弾、上陸用舟艇や小型舟艇には磁気信管を使う対舟艇榴弾を用います。

成形炸薬は装甲を貫くことに最適化されていますが、薄い船体をそのまま撃ち抜いてしまうと効果が落ちます。だから舟艇を相手にするときは、磁気信管で適切なタイミングに炸裂する榴弾を使いました。

目標に合わせて弾頭を入れ替えるという発想。これがこの装備の本当の個性でした。

89式装甲戦闘車の上で続いた二度目の現役

地上発射装置だけではありません。89式装甲戦闘車の砲塔両側面にも、79式対舟艇対戦車誘導弾の発射機が1基ずつ搭載されていました。搭載弾数は4発で、2発は発射機内部、残りは車内弾薬庫に収められます。

ただし地上型と発射装置の互換性はなく、車載用の発射機を地上に降ろして設置することもできませんでした。同じミサイル、別のシステムだったわけです。

2023年3月、44年の区切りとよくある誤解

79式対舟艇対戦車誘導弾は1995年までに発射機240基、資料によっては約250セットが調達され、全国の部隊に行き渡りました。

そして2023年3月15日付の部隊改編で第12対戦車中隊が廃止され、地上発射型の運用が終了します。

ここでよく見かける誤解があります。「2023年に完全退役した」という説明ですが、正確ではありません。89式装甲戦闘車を運用する第11普通科連隊や普通科教導連隊では、車載分の運用が続いたからです。

ただし2023年5月の総合火力演習での射撃が、事実上の最後の公開射撃と伝えられています。制式化1979年、地上運用終了2023年。ちょうど44年でした。

後継はなぜ遅れたのか、96式と中距離多目的誘導弾

79式対舟艇対戦車誘導弾の本来の後継は、1996年に制式化された96式多目的誘導弾システムでした。光ファイバーによる有線誘導で性能は上回りましたが、1セット約20億円という価格に加え、複数の車両で1セットを構成する複雑な体系だったのです。結果として配備は大きく伸びませんでした。

そこで登場したのが中距離多目的誘導弾、通称「中多」です。2004年度に開発着手、2009年度から調達が始まりました。高機動車1両に発射機と管制装置をすべて載せ、車上からそのまま射撃でき、最大6発を搭載します。

ただし一部の観測筋は、中多が重くヘリコプターによる空輸の柔軟性で79式に劣ると指摘しています。これは多数意見というより、一部の批判的な見方と捉えるのが正確でしょう。

79式対舟艇対戦車誘導弾が残したもの

遅く、重く、射手を命中の瞬間まで縛りつける装備。現代の基準では確かに旧式です。

しかしこのミサイルは、最初から世界最強の対戦車ミサイルを目指して作られたわけではありません。海岸線が長く山地の多い島国で、敵が陸に足をかける前に捕まえるという、きわめて具体的な宿題を解くために設計された道具でした。

名前で舟艇が先に来る理由。それが79式対舟艇対戦車誘導弾のすべてであり、44年を支えた答えでもあります。

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