SH-60K——見た目だけSH-60Jの、まったく別の機体
写真でSH-60Kを初めて見た人は、SH-60Jとの区別がほとんどつかないだろう。同じ灰色、同じシルエット、同じローター。だが、この二機は中を開けると共通点がほとんどない。
キャビン寸法からエンジン、ソナー、レーダー、情報処理装置、着艦の方式、そして武装まで、すべてが入れ替わっている。20年以上にわたり我が国の海の対潜最前線を担ってきたこの機体が、いったい何を積んでいるのか。一つずつ開けていこう。
SH-60Kは何をする機体なのか
三菱重工業の公式説明によれば、SH-60Kはヘリコプター搭載護衛艦に搭載し、艦艇と一体となって各種任務を遂行するため、SH-60Jをベースに改造開発された2000年代の艦載哨戒ヘリコプタである。そして主要任務は、五つと定義されている。
- 対潜戦(ASW)
- 対水上戦(ASuW)
- 警戒・監視
- 輸送及び救難
- 通信中継
「哨戒ヘリ」という呼び名は、半分しか正しくない。潜水艦を追う狩人でありながら、漂流者を吊り上げる救難機であり、艦隊の電波をつなぐ中継局でもある。この多用途性こそ、SH-60K設計の出発点だった。
開発の背景——SH-60Jの狭いキャビンが投げた問い
海上自衛隊はHSS-2Bの後継としてSH-60Jを導入し、1991年6月28日に部隊使用承認を受けた。シコルスキーのSH-60B機体を三菱重工業がライセンス生産し、技術研究本部が開発したシステムを載せた組み合わせである。
ところがそのSH-60Jも平成16年度から除籍が見込まれ、後継機の検討が始まった。このとき候補として、SH-60J発展型のほかにNH90、EH101、S-92も俎上に載せられている。結論はいずれも不適当だった。NFH90はペイロードの余裕が小さく、EH101とS-92は既存艦の航空艤装との適合性に問題があった。つまり、我が国の護衛艦に収まらない機体だったのである。
ならば答えは一つしかない。SH-60Jを、我々の手で描き直す。平成9年度から「艦載回転翼哨戒機(SH-60J改)」の開発が正式に始まり、1997年12月に三菱重工業が開発担当会社に選定された。2001年8月8日に試作1号機ロールアウト、翌9日初飛行、2002年6月24日引き渡し。そして2005年3月、SH-60Kとして部隊使用承認を受けた。


SH-60Kを生んだ7つの決定的改良
1. キャビン——33センチと15センチ
SH-60Jの最大の弱点はここだった。陸軍用汎用ヘリの機体フレームを基にしていたため天井が低く全体に狭く、作戦器材を積むと搭乗員が動けない。
SH-60Kはキャビンを前方に33センチ延長し、高さを15センチかさ上げした。右舷扉の開口部も拡大。使用可能な床面積は2.1平方メートルから3.1平方メートルへ、ソナーとソノブイ発射機を撤去すれば5.0平方メートルまで開く。搭乗可能人数は12名(SH-60J比+4名)。搭乗員自身も、ワークロード軽減のため3名から4名に増員された。
数字で見れば些細に思える。だが実際には、この33センチがその後のすべての装備更新のための空間を用意したのだ。
2. エンジンと高性能ロータ
キャビン拡大分の重量増を補わなければならない。エンジンはT700-IHI-401C2に換装され、出力は約1,800馬力から2,000馬力級へ強化された(資料により2,055shp/2,145shpの表記が併存する)。
ロータは前縁と翼端を除いて複合材料で成形され、スパー部にはケブラー繊維(AFRP)を使用。翼端に上下反角と後退角を付し、ホバリング時の空力特性を最適化している。三菱重工業が1984年から複合材ローターブレードの基礎研究を積み上げてきた成果だが、開発途中にひび割れの不具合が発生し難渋した局面もあった。結果としてロータ直径を大きく増やさずに、最大設計重量を9,926キロから約11,000キロへ引き上げることに成功した。


3. AHCDSとグラスコクピット
アビオニクスは全面刷新である。SH-60JのHCDSを発展させたAHCDS(戦術情報処理表示装置)を中核とし、MIL-STD-1553Bデータバスで連接されている。
ここには興味深い舞台裏がある。AHCDSではニューロコンピュータ方式の採用も検討されたが、リスクが大きいと評価されてエキスパートシステム方式での構築となった。ところがオペレーションプログラムはHCDSの10倍以上の規模となり、我が国初の戦術判断支援アルゴリズムの開発が求められ、開発期間は予定の2倍以上に膨らんだ。部隊側は第51航空隊が主体となり、技術研究本部第2研究所と三菱重工ヘリ技術部も加わって、官民と運用・技術が一体となって進められた。
計器盤にはAHCDSの15インチディスプレイ5基と大型多機能表示装置(MFD)1基。MFDには戦術情報、デジタル地図、レーダーやFLIRの探知映像、ISARの解析画像が映る。
4. 着艦誘導支援装置(SLAS)——世界初
夜間や荒天時の艦上着艦は、ヘリ搭乗員にとって最も危険な数十秒である。SH-60Kはこの難所を、装備で解決した。
SLASはDGPSの位置情報で艦の手前50メートル付近まで自動接近し、そこから赤外線とレーザーによって自動着艦する。実用装備としては、これが世界初の実現だった。
5. HQS-104低周波吊下式ソナー
センサー刷新の核心である。吊下式ソナーは開傘展張機構を導入して低周波化された。周辺国潜水艦の静粛化に対応するための選択だ。機上でソノブイの音響信号を解析する機能も強化されている。
ただしトレードオフがある。開傘展張状態では送受波器を揚収方向にゆっくり動かすことしかできず、従来のように上下させて探知に最適な深度を探る運用は困難になったという指摘が存在する。よい装備更新が必ずしも全ての面で優位とは限らない——正直に記録しておくべき点である。
6. HPS-105B ISARレーダー
レーダーは逆合成開口レーダー(ISAR)機能を導入したHPS-105Bとなった。水上目標を単なる「点」として捉えるのではなく、形状を解析して識別する能力である。対水上戦が正式な任務に入った機体には、必須の条件だった。
一方、磁気探知機(MAD)は野心的な計画が挫折した項目だ。超伝導方式でセンサー部分を機体に固定装備するインボードMADが計画され、SH-60J実機でのデータ収集まで行われたが、機体の磁気とその補償、超伝導状態を維持する低温環境の確保という課題を越えられず断念された。結局SH-60Jと同じAN/ASQ-81が、右舷パイロン後方に搭載されている。
機首にはAN/AAS-44 FLIR。これはヘルファイアのためのレーザー目標指示装置としての機能も兼ねる。
7. 武装——対潜専用から対水上まで
SH-60JはMk.46魚雷と74式機関銃しか搭載できなかった。SH-60Kはここに97式短魚雷、対潜爆弾、AGM-114MヘルファイアII空対艦ミサイルを加えた。12式短魚雷の運用にも対応する。
ヘルファイア用のM299ランチャー自体は4発対応だが、スタブウイングと地面との距離の関係から、実際には2発搭載で運用される。74式機関銃の銃架を取り付けるにはソナーを外す必要があるが、キャビン拡張とカーゴドア大型化により着脱は30分以内に完了できるとされる。
自己防御も強化された。機首および尾部にAN/AAR-60ミサイル警報装置、テイルブームにAN/ALE-47チャフ・フレア発射装置を備える。
主要諸元
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 乗員 | 3~4名(最大12名搭乗) |
| 全長 | 19.8m(ローター回転時) |
| 全幅 | 16.4m(回転時)/3.3m(折りたたみ時) |
| 全高 | 5.4m |
| 全備重量 | 約10.65t |
| 最大設計重量 | 約10.9~11.0t |
| 発動機 | GE/IHI T700-IHI-401C2 ×2 |
| 超過禁止速度 | 139ノット(約257km/h) |
| 航続距離 | 約800~900km |
| 実用上昇限度 | 約4,000m |
| 主な武装 | 74式機関銃、Mk.46/97式/12式短魚雷、対潜爆弾、AGM-114M |
調達と世代交代——そして機齢延伸
SH-60Kの調達は平成14年度に始まった。当初は年7機のペースで入り、その後は年度ごとに0~5機の間を推移している。
| 予算計上年度 | 調達数 |
|---|---|
| 平成14~17年度 | 各7機 |
| 平成18年度 | 3機 |
| 平成19年度 | 5機 |
| 平成20年度 | 0機 |
| 平成21年度 | 2機 |
| 平成22~23年度 | 各3機 |
31中期防では、哨戒ヘリコプターを有人機75機を基本とする体制と定めた。保有数は2024年3月末時点で73機。その後の減少傾向を踏まえれば、現在は約70機規模とみられる。
注目すべきは、新規調達がSH-60Lへ移った後もSH-60Kに予算が投じ続けられている点だ。令和6年度の要求では、SH-60K2機の機齢延伸に11億円が計上されている。後継機が行き渡るまで現役機を確実に動かす——きわめて現実的な判断である。
一方で除籍も始まった。2023年1月13日、第21航空隊(館山航空基地)所属の8405号機が、SH-60Kとして初めて除籍された。
救難仕様——対潜装備を外して残る多用途性
SH-60Kの多用途性が思わぬ形で活きた例がある。UH-60Jの減勢に伴い、SH-60Kの対潜機器を取り外して救難仕様に改修した機体だ。改修初号機の8455号機は、2023年11月中旬に第21航空群へ配備された。
もともとキャビンを33センチ広げておいたことが、20年後に救難機へ転用される際にそのまま利点となった。設計時の余裕が、想定外の場面で効く。なお試作1号機の8401号機はUSH-60Kに改造され、第51航空隊(厚木)で各種試験に用いられている。
2024年4月、我々が失った8人
この機体を語るなら、必ず併せて記録すべきことがある。
2024年4月20日の夜、伊豆諸島・鳥島沖およそ270キロの海域で、夜間対潜戦訓練中のSH-60K2機が墜落した。長崎・大村航空基地所属と徳島・小松島航空基地所属の各1機。搭乗していた8名は、全員が帰らなかった。
海上幕僚監部は5月2日、原因を「衝突」と断定した。フライトレコーダーの一次解析では、両機ともに針路・速力・高度といった飛行諸元やエンジン諸元に異常はなく、同時刻・同位置で衝突を示す急激かつ大きな衝撃が確認された。機体そのものの安全性には問題がなかったという結論である。
7月9日に公表された事故調査結果は、原因を二点に整理した。①見張り要領不適切、②複雑な作戦環境下における高度管理不十分。 運用環境、航空機とその管理、人的要因については、事故に結びつくものは認められなかったとされた。
訓練は5月3日の単機による飛行再開から、昼間・単一指揮系統、そして夜間・複数指揮系統・複数機へと、段階的に戻されていった。
そして2026年——フィリピン海で
2026年6月、SH-60Kは米軍主催の多国間訓練「ヴァリアント・シールド2026」に参加した。防衛省・統合幕僚監部が7月15日に公開した映像では、SH-60Kが標的艦へヘルファイアを発射する場面が確認できる。
20年以上前、図面の上でキャビンを33センチ延ばすと決めた判断が、実弾命中という形で答えを返した瞬間だった。
SH-60Lへ——だが今はまだSH-60Kの時間
中国・ロシア潜水艦の静粛化と行動海域の拡大、そしてソマリア沖の海賊対処部隊派遣で得た教訓が、後継機の要求に反映された。平成27年度から「回転翼哨戒機(能力向上型)」の開発が始まり、SH-60Lが生まれた。試作機XSH-60Lは2021年5月12日に初飛行し、2023年12月22日までに部隊使用承認を受けている。
予算は世代交代へ向かって流れている。令和6年度は6機665億円、令和7年度は2機293億円、令和8年度は3機430億円。2022年8月時点の平均量産単価は約81億円とされていた。
それでも、SH-60Lの量産機が部隊に行き渡るまで、約70機規模のSH-60Kが依然としてこの海の主力である。33センチという一つの判断から始まった機体は、自らの後継者を待ちながら、今この瞬間もローターを回している。我が列島の海は、その音に守られている。


