9mm拳銃SFP9、38年の沈黙を破る
9mm拳銃SFP9が自衛官の腰に下がり始めたのは、単なる装備更新ではなかった。1982年に制式化された「9mm拳銃」以来、実に38年ぶりの世代交代である。それは我が自衛隊が、拳銃という装備を見る目そのものを変えたという宣言だった。
世界の軍隊が弾倉に17発を詰めていた時代、我が拳銃の装弾数はわずか9発。それも40年近く。その9発を15発にするまで、なぜこれほどの時間がかかったのか。
11.4mmの反動、そして9発という知恵
自衛隊創設期の拳銃は、米軍から譲り受けたM1911だった。制式名「11.4mm拳銃」。.45ACP弾の強烈な反動は、日本人射手の体格と最後まで折り合わなかった。
1979年、新拳銃を選ぶ試験が始まった。候補には国産の新中央工業M57A1もあった。結果はスイスSIG社のP220。だがここに、見落としてはならない一点がある。
我々はあの拳銃を買ったのではなく、造ったのだ。新中央工業(現ミネベアミツミ)がライセンスを取得して国内生産し、グリップパネルの形状まで日本人の手に合わせて再設計した。その帰結が、単列弾倉の9+1発だった。

9発は欠点ではなく設計だった
薄いグリップは手の小さな隊員に正確に収まった。SIG特有の命中精度が乗った。指揮官の自衛用火器として、9発は決して不足ではなかった。
そうして38年を凌いだ。亀裂は、別の場所から始まった。
亀裂は普通科から来た
市街地近接戦闘の訓練が本格化すると、拳銃は「護身用」から「戦うための火器」へと性格を変えた。このとき9発は決定的に足りなかった。海外派遣や島嶼防衛で活動範囲が広がったことも圧力となった。
さらに現実的な理由がひとつあった。9mm拳銃の最後の調達は2012年。数の確保そのものが難しくなっていたのである。
9mm拳銃SFP9がグロックとベレッタを退けた理由
平成29年度予算で、防衛省は試験用拳銃3機種を各8丁調達した。オーストリアのグロック17 Gen5、イタリアのベレッタAPX、ドイツのH&K SFP9。富士学校で第1次試験が行われた。
2019年12月6日、結論が出た。防衛省は3機種すべてが要求性能を満たすと判断した上で、「性能」「後方支援」「経費」の3項目で最高得点を獲得した9mm拳銃SFP9を選定した。
とりわけ経費で圧倒的だった。量産単価は1丁あたり約7万円──3機種中で最も安い。H&Kは高価という通念を、自ら破って来たのである。


我が自衛隊が選んだのは、ただのSFP9ではない
2020年5月18日の報道公開で、専門家がスライドの刻印「SFP 9 M」と錨・トライデントのマークを見つけた。採用仕様はMaritime(マリタイム)。濡れた状態での操作性と排水性を高めたモデルだった。
ここに我が国の真の意図がある。水陸機動団、南西方面の島嶼防衛──我々の作戦環境が、機種の細部仕様を決めたのだ。カタログを眺めて選んだのではない。要求条件が拳銃を選び出したのである。
9mm拳銃 vs 9mm拳銃SFP9
| 項目 | 9mm拳銃(P220系) | 9mm拳銃SFP9 |
|---|---|---|
| 制式化 | 1982年 | 2020年 |
| 原設計 | SIG SAUER(スイス/独) | H&K(ドイツ) |
| 生産 | 国内ライセンス生産 | 完成品輸入(国内生産は未公表) |
| 作動 | ダブルアクション | ストライカー式 |
| 装弾数 | 9発 | 15発 |
| 全長/重量 | — | 約18cm / 約800g |
| グリップ | 形状固定 | 3種交換式 |
| 特色 | 日本人の手に合わせた形状 | Maritime防水・排水仕様 |
装弾数は9発から15発へ。メーカーは17発・20発弾倉も供給しているが、自衛隊公表の諸元は15発である。
注目すべきはグリップ3種交換式だ。1982年にP220のグリップを削って解こうとした課題を、2020年にはオプション交換で解く。同じ悩みが40年後、洗練された答えを得たことになる。
なぜ国産拳銃がないのか──数字が答えだ
我が国は潜水艦を造る。イージス艦を造る。そして同じ日に発表された20式5.56mm小銃は、豊和工業が独自開発した完全国産である。
それでも拳銃だけはドイツ製だ。答えは調達数にある。
- 20式小銃 ── 3,283丁
- 9mm拳銃SFP9 ── 323丁
ちょうど約10分の1。グロックは同じ拳銃を世界の軍と警察に売る。不満が来れば直し、また売る。開発費は世界市場が分担する。
国産拳銃を造れば、顧客は自衛隊だけだ。開発費を回収する市場がなく、使う者が少ないから欠陥が露呈する機会さえ少ない。我が国が拳銃を造れないのではない。造っても、買う者が世界にいないのである。
だから我々は冷静に計算した。拳銃は世界最良を最安で買い、小銃は国産で行く。限られた防衛費を扱う、成熟した判断だ。
15発が開く、次の40年
9mm拳銃SFP9の広がりは、この判断の正しさを示している。令和2年度の323丁で始まった調達は令和5年度から海上自衛隊・航空自衛隊へ拡大し、陸上自衛隊だけで約1万4,000丁、管理運用費を含め約27億円規模の計画が進行中だ。
9発の40年は、欠乏の歴史ではなかった。与えられた条件で最善を絞り出した40年だった。そして今、15発の時代が始まっている。
自衛官の腰に下がるのはドイツ製の拳銃だ。だが、それを選んだ眼。濡れた手でも握れなければならないと要求した声。そして同じ日に世に出た国産の20式小銃──その全部が、我が国のものである。


